このプロジェクトについて
このプロジェクトは、生成AI が「裂地台帳(柄帳)」にある模様に名前をつけるというものである。 分析の対象となる江戸時代に織られた裂地は、現代の機械の目を通して、どのように読まれ、記述されるのだろう。
そもそも着物の柄や色の名前は、その時代の流行や文化を色濃く反映してきた。平安時代には貴族が四季を表すために生み出された「かさねの色目」、江戸時代には華美な色を禁じた奢侈禁止令によって「四十八茶百鼠」といった名前が生み出されてきた。
人間は、身体を通した経験や感情から言葉をつむいでいくため、そうした営みのひとつである模様に名前をつける行為もまた、時空間的な制約を受けることになる。ひとつの身体を通した人間の経験やそれに伴う感情には限りがあるからだ。
一方で、AI の場合は人間と違い、大量のデータセットと予めプログラムされたアルゴリズムによって言葉をつむぐ。このデータセットを変更すれば、様々なコンテクストを反映した言葉を生成し、時空間的な制約を飛び越えることができる。そこで、この特性を活かして、時空間的に隔たりのある人物に、擬似的に裂地の模様の名前をつけてもらうことを思いついた。
裂地が織られた当時の文化的な背景を剥奪し、様々な時代や分野のコンテクストでそれを更新することで、模様が持つ別の価値や解釈が発見できるのではないかと考えた。 AIへの指示内容は以下のようなものである。
あなたは○○○○になったつもりで回答してください。
この画像は着物の生地です。
日本語で以下のことについて回答してください。
理由を説明しながら、写真の生地に名前をつけてください。
名前は生地の見た目にふさわしい、独創的な名前にしてください。
市松模様のようなもうすでに存在する柄の名前を使用することが禁止されています。
また、そのように名付けた理由を入力してください
今回は活躍した時代・分野の異なる4名の人物をになりきってAIに名前をつけてもらった。 結果的に生成された名前には、季節ごとの自然の美しさや時間に関連する語が多用されている。LLMは言葉を紡ぐアルゴリズムの性質上、多数派の回答から逃れられないため、多くの日本人が共有しているであろうこれらの用語が頻出すると考えられる。
また、時代を象徴するような具体的な名詞はほとんど登場しなかった。情報の総量自体は過去より現代の方が多く、それに加えて著作権や文体の変化などの理由から、LLMの学習可能な過去の日本語データは限られていると考えられる。今回選定した4名はいずれも100年以上前に日本で活躍した人物たちであり、LLMがどのような文献や情報にアクセスできるのかということの現状がこの名前の中に表現されている可能性が高い。
つけられた名前とともに解説を読むと、その人物らしさの断片を発見することができるが、実際のところLLMが言葉を紡ぐアルゴリズムは多次元にわたり、人間がその全てを遡ることはできない。しかしそれゆえにつけられた名付けられたコンテクストを人間側が多義的に解釈し、AIと協働する形で着物に新しい解釈を与えることができるのではないかと考えた。それを表現する形でチーム名を「kye+iwm+llm」とした
使用したツールについて
今回のプロジェクトでは、OpenAIが開発したChatGPT-4を用いて着物の裂地に名前をつけた。スタディ段階ではGoogleが開発した対話型 AIであるGeminiも用いたが、「独創的な」といった抽象的な指示に対してChatGPTの方がより表現に富んだ言葉を生成する傾向があった。 また、GPT-4は司法試験の模擬試験でのスコアが受験生の上位10%に入るなど高い知能を有し、言語だけでなく画像の読み取り精度も高い ため、今回のプロジェクトに最適であると考えた。